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2021.04.15

MEDIA

【ファッションDXDAYs2021】《基調講演》シームレス化する繊維・アパレル生産の未来 3Dモデリストに活躍の場を

繊研新聞 2021年4月15日付

       渡辺氏(左)と谷本氏

■基調講演出席者

・三菱商事ファッションデジタル事業推進本部デジタル事業開発部長 谷本広幸氏

・豊島デザイン企画室室長 渡辺哲祥氏

 「商社のDX・シームレス化する繊維アパレル生産の未来」と題したディスカッションを行った。業界で広く定着するDXの定義にはじまり、3Dモデリスト、デジタルサンプル・コストなどの課題を通じて、今後の業界を展望する幅広い内容となった。

製販全体を網羅する

 まず、DXの定義について、渡辺氏は「これまでアパレルのODM・OEM(相手先ブランドによる設計・生産)の物作りによって蓄積してきた重要な情報を、データとして集約しデジタルに全て置き換えること」との考えを示した。一方、谷本氏は「デジタル・サプライチェーンマネージメント(DSCM)をDXと考える」と述べた。三菱商事ファッションが独自に3D・CGの技術を追求し、デジタルツインの構築を行ってきた結果がDSCMにつながってきたとしている。しかし、谷本氏は「〝3D〟イコール〝DX〟ではない」と言い切る。昨今、注目を浴びる3D技術は、あくまでも〝物作り〟を担う部分であり、「安易に3DモデリングをECに搭載して商品を販売することはできない。販売に向けたECには独自のスキルが必要であり、全く別物と考えるべきだ」と言う。AI(人工知能)による需要予測からはじまり、生産における生地のデータ管理や物流のロボット化など、製販全体を網羅したデジタル化をDXとして見るべきとしている。

3Dモデリスト不足?

 繊維・ファッション業界ではDXを推進するうえで、3Dモデリストの不足がボトルネックとの見方がある。これについて渡辺氏は「豊島では、デジタル分野で全く経験のないデザイナー、パタンナーを対象に社内教育制度を整えて、3Dモデリスト育成に努めている」とし、着実なデジタル技術の向上と浸透を図っている。一方、谷本氏は「3Dモデリストについてはメディアを通じて人材不足が言われているが実態は違う」と指摘する。コロナ禍の下で、3Dモデリング技術を独学で習得するパタンナーなどは多い。また、服飾系学校でデジタルテクノロジーを学ぶ学生も多くいる。「しかし、技術を習得し、学校を卒業しても就職先がないのが現実。これは企業側に課題がある」と言う。

 アパレルや商社などが、3Dモデリストの技術を持った人材が能力を発揮する仕事をつくれていない。谷本氏は「業界が従来の在り方から脱却できていないことが最大の課題」と強調する。

サンプルコストの行方

 アパレル業界においてサンプルに掛かるコストについては、バルク生産のコストに含めることが商慣習としてある。デジタルサンプルにおけるコスト意識に変化はあるのか。

 三菱商事ファッションではデジタルサンプル費用を別途料金とするのか、OEM(相手先ブランドによる生産)にコストインするかはOEM営業部隊の判断に任せている。しかし大半のケースではOEMにコストインしている。谷本氏は「OEMの手段として使っている限りはその対価を生むことはできない。OEMで得たデータを生かしながらバーチャル展示会の開催や、ECサイトで販売するなど、次の段階に向けた仕組みを提案している。製販トータルの活用によるDSCMのメリットを発揮して、アパレル業界の役に立っていきたい」としている。豊島では「デジタルサンプルとして別途発生する料金は無く、商品企画をサポートする仕組みとして活用する」(渡辺氏)考えだ。

 業界のDXを進展するうえで重要なことは何なのか。谷本氏は「デジタルはカルチャー」との持論を述べた。「最近、デジタルを手段のひとつとして捉える人が多くなっている。デジタルの新しいアイデアや提案に対して継続性をもって、積極的にトライすることで進度が向上していく」と強調した。

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